IT企業のおすすめを残業時間・有給取得率の公表データで見分ける

「IT企業 おすすめ」で検索すると、年収ランキングやホワイト企業ランキングと名付けられた記事がたくさん出てきます。ただ、その「おすすめ」が何を根拠にしているのかまで書いている記事は多くありません。基準が分からないランキングは、鵜呑みにすると判断を誤ります。
この記事では、企業名を一方的に並べるのではなく、誰でも無料で確認できる公表データ(残業時間・有給取得率・女性管理職比率といった働きやすさの指標)から、自分の基準で「おすすめ」を判断する方法を整理しました。
- 情報の確認日 2026年10月4日
- 読み比べた記事 検索上位の5本
- 確認した一次情報 厚生労働省『職場情報総合サイト(しょくばらぼ)』『女性の活躍・両立支援総合サイト』、えるぼし・くるみん認定制度の労働局資料、有価証券報告書の人的資本開示に関する解説資料
- 参考にした読者の声 IT業界ランキング記事への『基準が分からない』という指摘、口コミサイトの投稿が在籍者・退職者に偏るという指摘
この記事は筆者の体験談ではなく、上の資料と検索結果を読み比べて整理したものです。数値や制度は一次情報で確認できたものだけを載せ、確認できなかったことは「この記事で分からないこと」にまとめています。
IT企業のおすすめを主観ではなく公表データで判断する

「IT企業 おすすめ」の検索結果には、年収ランキングや『隠れ優良企業』を名乗るホワイト企業ランキングが並びます。ただ、その順位が何を数えて作られたのかまで示している記事は多くありません。基準が書かれていないランキングは、作成した側の意図で順位が変わっている可能性があり、読む側が同じ基準で他の企業と比べ直すことができません。この記事では、企業名の列挙ではなく、誰でも検索できる公表データを基準にします。
ランキングは作成主体や評価基準によって結果が変わります。年収の高さを基準にした記事と、人気度を基準にした記事では、同じ『おすすめ』でも並ぶ企業がまったく違います。まず確認すべきは、順位よりも『何を数えた結果か』です。
おすすめの基準が書かれていないランキングが多い
検索上位の記事の多くは、年収・売上高・就活生からの人気度のいずれかを基準にしています。この3つはいずれも企業の規模や知名度と結びつきやすく、働きやすさとは別の指標です。働きやすさを知りたい読者が年収ランキングだけを見ると、見たい情報とズレが生じます。
本記事で基準にする3つの公表指標
この記事では、残業時間・有給休暇取得率・女性管理職比率やそれに類する働きやすさの指標に絞ります。いずれも企業が国の制度に基づいて公表している数字で、どの会社について調べても同じ土台で比較できます。
- 月平均残業時間(しょくばらぼ・両立支援のひろばに掲載)
- 有給休暇取得率・取得日数(しょくばらぼ・両立支援のひろばに掲載)
- 女性管理職比率・男女の賃金の差異(両立支援のひろばで公表義務)
- 平均継続勤務年数(しょくばらぼに掲載)
- えるぼし・くるみん認定の有無(厚生労働省の認定制度)
ランキングの順位そのものより、『どの指標で並べたランキングか』を先に確認すると、自分が知りたい情報と合っているかどうかが分かります。
残業時間・有給取得率が分かる「しょくばらぼ」

しょくばらぼとは、厚生労働省が運営する職場情報総合サイトで、企業名を入力するだけで月平均残業時間や有給休暇取得日数などの職場情報を検索・比較できます。もともと別々にあった若者雇用促進総合サイトや女性の活躍推進企業データベースの一部機能などを統合して作られたサイトで、採用担当者が自主的に登録した情報が載っています。
しょくばらぼ(厚生労働省)には、基本情報(会社名・都道府県・本社所在地など)、採用情報、労働条件等の情報(平均継続勤務年数・平均年齢・月平均残業時間・有給休暇取得日数など)、女性の活躍に関する情報、ワークライフバランス等に関する情報が項目として用意されています。
しょくばらぼに載っている項目
- 平均継続勤務年数・平均年齢
- 月平均残業時間・月平均休日労働時間
- 有給休暇取得日数・取得率
- 前年度の採用人数・男女別の人数
- 研修の有無など人材育成に関する情報
検索してみると分かること
企業が自主的に登録して公表するサイトなので、すべての企業が載っているわけではありません。ただ、求人サイトの記載だけでは分からない残業時間や有休取得率を、企業側の発表した数字として確認できる点が、口コミサイトとの大きな違いです。登録が無い企業は、採用ページで同じ項目を公表していないか確認する方法に切り替えます。
しょくばらぼで数字が見つからない会社は『公表していない』だけで、働きやすいかどうかとは直接関係しません。無いときは次の章のデータベースや採用ページも併せて調べてください。
女性管理職比率や賃金差を見る「両立支援のひろば」

両立支援のひろばとは、厚生労働省が運営するサイト『女性の活躍・両立支援総合サイト』の通称で、女性の活躍推進企業データベースやポジティブ・アクション情報ポータルサイトなどを統合したものです。企業が女性活躍推進法に基づいて公表した情報を、企業名で検索して見られます。しょくばらぼと重複する項目もありますが、女性管理職比率や男女の賃金の差異は、こちらのサイトのほうが詳しく確認できます。
女性の活躍・両立支援総合サイト(厚生労働省)では、男女の賃金の差異と管理職に占める女性労働者の割合は公表が義務づけられた項目です。育児休業取得率や月平均残業時間などは、企業が任意で公表する項目として扱われています。
公表が義務の項目と任意の項目
| 項目 | 公表の扱い | 何が分かるか |
|---|---|---|
| 男女の賃金の差異 | 義務 | 男性の賃金を100としたときの女性の賃金の割合 |
| 女性管理職の割合 | 義務 | 管理職に占める女性の比率 |
| 育児休業取得率 | 任意 | 男女別の育休取得率(公表している企業のみ) |
| 月平均残業時間 | 任意 | しょくばらぼと重複する項目として載る企業もある |
キャリアノート編集部が、厚生労働省『女性の活躍・両立支援総合サイト』の説明をもとに整理(2026年10月4日確認)
中小企業でも登録されている理由
女性活躍推進法は、常時雇用する労働者が101人以上の企業に行動計画の策定と情報公表を義務づけています。そのため、大企業だけでなく中小規模のIT企業も登録されていることがあります。101人未満の企業は義務の対象外ですが、任意で公表している場合もあります。
IT業界は中小のSES企業やシステム開発会社が多いため、中小IT企業の働き方について整理した記事も合わせて読むと、規模による違いが見えやすくなります。
えるぼし・くるみん認定は国のお墨付きの指標

えるぼし認定とくるみん認定は、企業が自己申告した数字ではなく、厚生労働大臣が基準を満たしていると認めた企業にだけ付く認定です。認定を受けている企業は、採用ページや名刺に認定マークを表示していることが多く、しょくばらぼや両立支援のひろばで個別の数字を見る前に、まず調べる手間が少ない指標として使えます。
えるぼし認定は女性活躍推進法に基づく制度です。くるみん認定は次世代育成支援対策推進法に基づく、子育て支援に積極的な企業向けの認定制度です。新潟労働局『えるぼし・くるみん認定制度』で、認定基準の詳細が確認できます。
えるぼしの5つの認定基準
えるぼし認定は、「採用」「継続就業」「労働時間等の働き方」「管理職比率」「多様なキャリアコース」の5項目の認定基準を満たした数に応じて、3段階に分けて認定されます。
- 採用(女性の採用比率など)
- 継続就業(男女の継続勤務年数の差など)
- 労働時間等の働き方(残業時間の状況など)
- 管理職比率(女性管理職の割合)
- 多様なキャリアコース(女性の非正社員から正社員への転換など)
くるみん認定が示すもの
くるみん認定は、育児休業の取得や短時間勤務制度の利用など、子育てと仕事を両立しやすい職場環境の整備状況を示す認定です。さらに高い基準を満たした企業には、プラチナくるみんという上位の認定もあります。認定の有無は、制度があるかどうかの目安にはなりますが、実際の運用状況までは示していません。
えるぼし・くるみんは『国が基準を確認した』という点が口コミより強い根拠になります。ただ、認定後に運用が変わっていないかは、採用担当者に聞いて確かめる価値があります。
上場企業は有価証券報告書の人的資本情報も見る

応募先が上場企業であれば、有価証券報告書にも手がかりがあります。2023年1月の『企業内容等の開示に関する内閣府令』等の改正により、2023年3月31日以降に終了する事業年度の有価証券報告書から、人的資本情報の開示が義務化されました。これまで年収や売上高の確認先として使われてきた有価証券報告書に、働きやすさに関わる項目が加わったことになります。
大和総研の解説資料によると、女性管理職比率、男性の育児休業取得率、男女間の賃金格差の開示が必須項目になっています。これらは両立支援のひろばの公表義務項目と重なる部分が多く、どちらで調べても近い数字が確認できます。
2023年から開示が義務になった項目
| 項目 | 開示元 | 対象企業 |
|---|---|---|
| 女性管理職比率 | 有価証券報告書の人的資本情報 | 上場企業など有報の提出義務がある企業 |
| 男性の育児休業取得率 | 有価証券報告書の人的資本情報 | 同上 |
| 男女間賃金格差 | 有価証券報告書の人的資本情報 | 同上 |
| 平均勤続年数・平均年齢 | 有価証券報告書『従業員の状況』(以前からの記載項目) | 同上 |
キャリアノート編集部が、大和総研の解説資料をもとに整理(2026年10月4日確認)。この記事では個別企業の有報本文は確認できていないため、各社の具体的な数値は載せていない
非上場の企業には使えない
有価証券報告書を提出するのは、証券取引所に上場している企業や、一定規模以上の非上場企業に限られます。IT業界に多いSES企業や中小の開発会社は対象外であることが多く、その場合はしょくばらぼや両立支援のひろばのほうが確認しやすい手段になります。
口コミサイトは公的データと組み合わせて使う

OpenWork・キャリコネ・就活会議といった口コミサイトでは、残業時間や有給消化率、退職理由などの投稿をまとめて見られます。社員本人が書いた言葉なので、公表データには出てこない具体的な事情が分かることがあり、ここまで紹介した公的データベースとは役割が異なります。両方を見比べることで、数字だけでは見えない部分を補えます。
ただし、口コミを投稿する人は在籍中や退職直後の人に偏りやすく、特定の部署や時期の話が会社全体の話として書かれている場合があります。投稿時期が古いと、制度が変わった後の実態と合わないこともあります。
口コミサイトで分かること
- 具体的な残業の発生状況や、部署ごとの差
- 退職理由として書かれやすい不満の傾向
- 面接・選考での質問内容や雰囲気
口コミに偏りが出やすい理由
口コミサイトへの投稿は、満足している社員より不満を持つ社員のほうが書く動機が強いという傾向が指摘されています。公表データと口コミを両方確認し、数字と投稿内容が大きくズレていないかを見ることで、どちらか一方だけで判断するより精度が上がります。
口コミサイトの評価だけで『この会社はブラックだ』と断定しないでください。特定の部署・時期の話である可能性を踏まえ、公表データと面接での確認を組み合わせてください。
多重下請け構造と商流も働きやすさに影響する

IT業界には、発注元から一次請け・二次請け・三次請けへと仕事が流れる多重下請け構造があります。階層が深くなるほど、受け取る金額や納期の裁量が小さくなりやすく、残業や評価のされにくさにつながることがあると指摘されています。この構造は、ここまで紹介した公表データの数字が生まれる背景の1つでもあり、同じ残業時間でも立場によって事情が変わります。
ITmediaの記事(キッカケクリエイション調べ)では、IT企業の経営層へのアンケートで、約7割が『短納期や低予算の下請け案件が多い』と回答したと報じられています。これは民間調査会社による調査で、公的統計ではない点を踏まえて参考にしてください。
商流を面接・求人票で確認する方法
- 自社サービスか客先常駐か、求人票に明記されているか
- 元請け・何次請けの立場が多いか、面接で具体的に聞く
- プロジェクトの発注元や取引先の例を挙げてもらえるか
下請け構造そのものは悪ではない
下請け構造そのものは、業界の分業の仕組みであり、二次請け・三次請けの企業すべてが条件の悪い現場というわけではありません。ただ、しわ寄せを受けやすい立場かどうかは、残業時間や評価制度といった公表データと合わせて確認すると、入る前に見えやすくなります。
商流は求人票だけでは分からないことが多いので、面接で遠慮せずに聞いてください。残業時間の公表データと商流の説明が食い違っている場合は、特に注意して確認する価値があります。
自分の基準でIT企業を見比べる4つの手順

ここまでの公表データを、実際に候補企業を比べる手順としてまとめます。すべての情報源を1社ずつ確認するのは手間がかかるので、優先順位をつけて進めるのが実用的です。しょくばらぼ・両立支援のひろば・認定マーク・有価証券報告書・口コミサイトの順に確認すると、公的データから個人の声へと精度を補う流れになります。
ステップ1 候補企業をしょくばらぼ・両立支援のひろばで検索する
まず候補企業の名前で、しょくばらぼと両立支援のひろばを検索します。どちらにも登録が無い場合は、企業の採用ページに同じ項目(残業時間・有給取得率・女性管理職比率など)の記載が無いかを確認します。
ステップ2 認定マークの有無を確認する
採用ページや求人票にえるぼし・くるみんの認定マークが表示されているかを確認します。表示が無くても認定を受けていないとは限らないため、気になる場合は企業の公式サイトで認定実績のページを探します。
ステップ3 上場企業なら有価証券報告書も見る
上場企業であれば、有価証券報告書の人的資本情報のページで、女性管理職比率や男女間賃金格差の数字を確認します。日本取引所グループのサイトや企業の投資家向け情報ページから有価証券報告書を探せます。
ステップ4 口コミサイトで数字と実態のズレを確認する
最後に口コミサイトを見て、公表データと大きく違う声が無いかを確認します。数字は良いのに口コミで残業の不満が多い場合は、部署による差が大きい可能性があるため、面接で担当予定の部署について具体的に質問します。
| ステップ | 確認する場所 | 分かること |
|---|---|---|
| 1 | しょくばらぼ・両立支援のひろば | 残業時間・有給取得率・女性管理職比率など |
| 2 | 採用ページ・求人票 | えるぼし・くるみん認定の有無 |
| 3 | 有価証券報告書(上場企業のみ) | 女性管理職比率・男女間賃金格差など |
| 4 | 口コミサイト・面接 | 公表データと実態のズレ |
キャリアノート編集部が、本記事で紹介した情報源をもとに手順として整理したもの(独自整理)
- 個別の企業名を挙げた具体的な数値は、この記事では確認できなかったため載せていません。候補企業ごとに本文で紹介した方法で直接確認してください
- 厚生労働省『雇用動向調査』の情報通信業に限った最新の離職率の具体的な数値は、この環境では確認が取れなかったため記載していません
- 選定時点でSERP1位だったcarrikatu-it.comの記事本文は、この環境ではアクセスできず、内容を直接確認できていません
- しょくばらぼの最新の登録企業数は、この記事では確認が取れなかったため記載していません
よくある質問
IT企業のホワイト企業ランキングはそのまま信じていいですか?
順位の基準が書かれていないランキングは、そのまま信じるのではなく参考情報の1つとして扱うことをおすすめします。年収や人気度を基準にしたランキングと、残業時間や有給取得率を基準にした情報は別物です。気になる企業が載っていたら、しょくばらぼや両立支援のひろばで本記事で紹介した公表データを自分で確認してください。
中小のIT企業は公的データに載っていますか?
しょくばらぼは企業が自主的に登録するサイトなので、中小企業でも登録している場合があります。両立支援のひろばは、常時雇用する労働者が101人以上の企業に行動計画の策定と情報公表が義務づけられているため、規模が小さい企業は対象外で任意公表にとどまることがあります。登録が無い場合は、採用ページや面接で同じ項目を直接聞く方法が確実です。
1つの指標だけで判断してもいいですか?
1つの指標だけで判断するのはおすすめできません。残業時間が少なくても女性管理職比率が低い企業や、認定を受けていても口コミで評価が分かれる企業もあります。本記事で紹介した複数の公表データと口コミを組み合わせ、自分が重視する項目に優先順位をつけて比べる方法が、思い込みで1社に絞るより精度の高い判断につながります。
まとめ IT企業のおすすめは1つの指標で決めない
IT企業の「おすすめ」は、年収や人気度だけで決まるものではありません。しょくばらぼ・両立支援のひろば・えるぼしやくるみんの認定、上場企業なら有価証券報告書という、誰でも確認できる公表データを重ね合わせることで、自分の基準に合った企業を見分けられます。ランキング記事を読むときも、まず何を基準にした順位かを確認する習慣が、遠回りに見えて一番確実です。
- ランキングを見るときは、何を基準に並べたランキングかを先に確認する
- しょくばらぼで残業時間・有給取得率・平均継続勤務年数を検索できる
- 両立支援のひろばで女性管理職比率・男女の賃金の差異を確認できる
- えるぼし・くるみん認定は国が基準を確認した指標として参考になる
- 上場企業は有価証券報告書の人的資本情報も合わせて見られる
- 口コミサイトは公表データとのズレを確認する目的で組み合わせて使う
まずは気になっている1社を、しょくばらぼか両立支援のひろばで検索してみてください。このサイトの記事の作り方は編集方針と情報源にまとめています。
参考資料


